食品工場をまわっていると、よく聞く言葉があります。「私しか、こういうのいじれない」。Excelのマクロ、Accessの画面、少し前に外注したツール。動いてはいるけれど、触れるのは一人だけです。
実際に伺った話
「私しか、こういうのいじれない」「本職じゃない」
- 情報系出身の担当者が、生成AIを使って画面・環境・商品登録をすでに自分で作っていた
- 動いてはいるが、データベース設計とセキュリティに不安が残っている
- 「その後の運用ができるか不安」という言葉が、繰り返し出てきた
- 第三者に既存のつくりを確認してもらう予定を、自分たちで組んでいた
作れる人ほど、この状態になります。そして本人がいちばん、それを分かっています。
なぜ、一人に集まってしまうのか
悪意も怠慢もありません。むしろ逆で、詳しい人が引き受けた結果そうなります。頼むほうも、いちばん早い人に頼みます。
受発注のツール
在庫のExcel
帳票のマクロ
担当者ひとり
作った人=直せる人
改修が止まる
確認が止まる
相談も集まる
止まる範囲は、社内で収まりません
食品関連の業務は前後がつながっています。ひとつ止まると、外まで波及します。
- 担当者が抜ける繁忙・異動・退職
- 受発注が止まる直せる人がいない
- 出荷が止まる指示が出せない
- 取引先に影響信用の問題になる
「作れる」と「支え続けられる」は別の技能
生成AIを使えば、画面も商品登録の仕組みも自分で作れます。ここは本当に速くなりました。難しいのは、作ったあとに何年も動かし続けるほうです。
| 作るとき | 動かし続けるとき | |
|---|---|---|
| 必要なこと | 画面と処理を作る | データ構造・権限・復旧 |
| 生成AIの効き方 | 大きく効く | 判断は人が持つ必要がある |
| 失敗の見え方 | すぐ分かる | 事故が起きるまで分からない |
| 直せる人 | 作った本人 | 設計が残っていれば、他の人も |
引き継げる形にするために要るもの
「マニュアルを書く」だけでは足りません。触れる人を増やすには、その手前の設計が要ります。
- データベース設計どこに何が入っているかが、構造から分かる
- 権限の分け方誰が見られて、誰が直せるのか
- バックアップと復旧壊れたときに、いつの状態に戻せるか
- 変更の記録なぜそう作ったかが残っているか
担当者が動けるうちに、できること
大がかりな話ではありません。次の4つは、外注しなくても社内で着手できます。順番に意味があります。
- 01棚卸しする誰が作った何が、いくつ動いているか。まず数を把握します
- 02データの置き場所を書き出すどのファイル・どのテーブルに何が入っているか。引き継ぎで最も時間を食う調査です
- 03バックアップの有無と復旧手順を確認する取っているつもりで戻せない、が最も多いパターンです
- 04止まったときの影響範囲を書くどの業務が、どこまで止まるか。優先順位はここで決まります
いま動いているものは、止めなくてよい
いま動いている仕組みは、業務に合っていますか?
- 合っている 調査して、引き継ぐ 中身を読み解いて仕様を起こし、支えられる形に整えます。作り直しません。
- 合っていない いちばん困っている業務から 全部を作り替えず、業務ひとつ分ずつ移していきます。
持ち帰っていただきたい3つ
- 担当者以外に、中身を説明できる人がいるかいなければ、まず棚卸しと置き場所の書き出しから。担当者が動けるうちなら数時間で終わります。
- 自分で作れたことは、否定しなくてよい足りないのは支える側の設計だけです。作ったものを活かしたまま、そこだけ足せます。
- 壊れたとき、いつの状態に戻せるかバックアップは「取っているが戻せない」が最も多いパターンです。復旧を一度試しておく価値があります。
この3つに答えられない項目があれば、そこが引き継ぎの詰まりどころです。作ったあとに支える人がいる状態を先に用意しておくことが、いちばん確実な備えになります。